第1歌頌 [イルモス] 佑け護る者顕れて、我が救と為れり、彼は我が神なり、我彼を讚め揚げん、彼は我が父の神なり、我彼を尊み頌(うた)わん、彼厳に光栄を顕したればなり。
カインの殺害に逾へたり、蓋我自由にして罪悪の肉体を生かし。我が悪業を以て霊(たましい)を撃ちて、之を殺す者となれり。
イイススよ、我アヴェリの義徳に傚(なら)わず、爾に何時も、容れらるべき献物をも、神を悦ばす行(おこない)をも、潔き祭をも、無玷(むてん)の生命(いのち)をも献ぜざりき。
禍(わざわい)なる霊(たましい)よ、我等もカインの如く萬有の造物主に罪悪の祭、即ち不潔の行(おこない)不当の生命(いのち)とを献げたり、故に我等定罪せられたり。
爾は陶工(すえものし)の如く土を形づくりて、我に肉と骨、呼吸と生命(いのち)を賜へり、我が造物主、我が贖罪主及び審判者よ、我痛悔する者を容れ給へ。
如く我に負わせし我が霊(たましい)と体との傷を爾の前に顕す。
救世主よ、我罪を犯せりと雖も、爾が人を愛する者なるを知る、爾は慈憐を以て罰し、熱愛を以て憐み、泣く者を顧み、父の如く走りて放蕩の者を召す。
永久の三者一性に於て伏拝せらるる者よ、罪の重きを我より卸(おろし)して、慈憐なるに因りて、我に感涙を与へ給へ。
生神女よ、爾を歌ふ者の憑恃(たのみ)及び轉達(てんたつ)よ、罪の重きに負け我より卸(おろし)て、潔き女宰たるに因りて、我悔ゆる者を納(い)れ給へ。
第2歌頌 [イルモス] 天よ、聴け、我伝へて童貞女より身を取りて来たりしハリストスを歌わん。
罪は我より神が先に織りし衣を剥ぎて、我が為に裘(かわごろも)を縫(ぬ)ひたり。
我は無花果(いちじく)の葉の如くに羞(はじ)の衣を衣て、我が縦(ほしいまま)なる諸慾の標(しるし)と為せり。
我邪侈(じゃし)にして快楽なる度生の不潔を以て汚され、且血に塗れたる辱づべき衣を衣たり。
我諸慾の苦と物体の壊(やぶれ)とに従へり、故に今敵は我を攻む。
世主よ、我世物を好み、財を貪ることを無慾より重んじて、今重き任に壓(あつ)せらる。
我汚れたる思ひの彩れる衣を以て肉体の偶像を飾れり、故に定罪せらる。
我唯外面の飾に心を盡して、神の像に依りて造られたる内幕(ないまく)を軽んぜり。
救世主よ、我初めの像の美しきを諸慾の中に埋めたり、爾彼の「ダラフマ」の如く、尋ねて之を得よ。
我淫婦の如く爾に呼ぶ、我罪を犯せり、我独(ひとり)爾の前に罪を犯せり、救世主よ、我よりも香膏(においあぶら)の如く涙を納(い)れ給へ。
我税吏の如く爾に呼ぶ、救世主よ、我を憐み、我を憐み給へ、蓋アダムの子孫の中何人も我の如く爾の前に罪を犯しし者なし。
我爾三位にして惟一なる萬有の神、父と子と聖神゚(せいしん)を歌ふ。
至浄なる生神・童貞女、独(ひとり)衆人に讃頌せらるる者よ、我等が救ひを得んことを切に祈り給へ。
第3歌頌 [イルモス]主よ、爾の誡(いましめ)の石に我が動ける心を固め給へ、爾独(ひとり)り聖にして主なればなり。
さきだ)ちて、我が中心より爾に呼ぶ、我罪を犯せり、我を憐みて救ひ給へ。主よ、我罪を犯せり、爾の前に罪を犯せり、我を憐み給へ、蓋人の中には我が罪過を以て逾(こ)えざりし罪人なし。
救世主よ、我ノイの時の放蕩の者に傚(なら)ひて、彼等が洪水に溺るる定罪を継ぎたり。
霊(たましい)よ、爾彼の殺父者(ちちころし)ハムに傚(なら)ひて、面を避けて隣の裸体を蓋(おお)ふことをせざりき。
我が霊(たましい)よ、罪の焔をロトの如く避けよ、ソドムとゴモラを避けよ、凡そ無知の望みの火を避けよ。
主よ、我爾に呼ぶ、我を憐み爾の天使等と偕に来たりて、衆人に其行(おこない)に循ひて報ひん時我を憐み給へ。
単一にして造られざる三者、無原にして三位に歌わるる性よ、我等信を以て爾の権柄(けんぺい)に伏拝する者を救ひ給へ。
神の母よ、爾は時の外に父より生まれし子を時の内に夫なくして生めり、異なる哉奇跡や、乳を以て養ひて、童貞女に止まれり。
第4歌頌 [イルモス] 主よ、預言者は爾が降臨の事を聞き、爾が童貞女より生れ、人々に顕れんと欲するを懼れたり、主よ、光栄は爾の力に帰す。
我が霊(たましい)よ、警醒せよ、古の太祖の大(おおい)なる者の如く勇め、然らば爾行(おこない)と智恵とを得、神を見る知識と為り、明悟を以て近づき難き闇冥(くらやみ)を貫き、大(おおい)なる宝を受けん。我が霊(たましい)よ、太祖の大(おおい)なる者は十二の太祖を生みて、爾の為に行ひを以て登べき梯(かけはし)を奥密に顕して、子を以て階級を兆(しる)し、己が此の階級にいく歩を以て上に登るを兆せり。
禍(わざわい)なる霊(たましい)よ、爾は憎むべきイサフに傚(なら)ひて、家子の業、即ち始の美を以て爾の誘惑者に與へて、父の祝福を失ひ、行(おこない)と智恵とを以て再び蹶(つまづ)けり、故に今痛悔せよ。
イサフは恋愛に耽(ふけ)るに因り、「エドム」と名づけられたり、彼は常に快楽に焚(や)かれ、邪慾に汚されて、「エドム」と称えられたり、之を解けば罪を好む霊(たましい)の燃ゆるなり。
我が霊(たましい)よ、爾は塵芥(ちりあくた)の中に坐して義とせられしイオフの事を聞きて、彼の勇みに傚(なら)わざりき、凡そ爾が知る所、見る所、試る所に於て堅固なる旨を守らずして、忍耐なきを顕せり。
先に宝座に在りし者は今塵芥(ちりあくた)の中に坐し、裸体にして全身に瘡痍(かさ)を被れり、多くの子を有ち、名の著(あらわ)れし者は俄に子なく家なき者と為れり、彼は塵芥(ちりあくた)を其宮と為し、瘡痍(かさ)を宝石と為せり。
我爾、同王にして同座たる、三位にして惟一なる神性、性に於て分れず、位に於て混合せざる者を承け認め、爾に大(おおい)なる歌、最高き居所に三次唱へらるる者を呼び歌ふ。
爾は生むにも、童貞を守るにも、二つながら天性の童貞女なり、爾より生まれし者は天性の法を改め、生まざる腹を生む、神の欲する所には天性の順序渝(か)えらる、彼欲することを行へばなり。
第5歌頌 [イルモス]人を愛する主よ、祈る、夜より寤むる者を照し、我をも爾の誡(いましめ)に導き、救世主よ、我に爾の旨を行ふを訓へ給へ。
霊(たましい)よ、爾は昔モイセイの置かれたる筐(はこ)が宮に在る如く河の波に漾(ただよ)はされて、ファラオンの謀の哀しむべき迹(あと)を遁れしを聞けり。
不当なる霊(たましい)よ、爾昔貞潔の例たる新生の男子を殺しし産婆の事を聞きしならば、今大(おおい)なるモイセイの如く智恵を吸う者と為れ。
不当なる霊(たましい)よ、爾はエギペト人を殴(う)ち、斃しし大(おおい)なるモイセイの如くに「エギペト」の智恵を殺さざりき、然らば謂ふべし、爾如何ぞ欲を脱れて、痛悔を以て野に居るを得ん。
大(おおい)なるモイセイは野に居りき、霊(たましい)よ、爾も往きて彼の度生に傚(なら)へ、爾も棘(いばら)の中に神の顕るるを見ん為なり。
霊(たましい)よ、爾海を撃ちて淵を固むるモイセイの杖を思へ、是れ神聖なる十字架の兆(しるし)たりき、此を以て爾も大(おおい)なる事を行ふを得べし。
アアロンは浄くして雑(まじり)なき火を神に献げたり、然れどもオフニ及びフィネエスは、霊(たましい)よ、爾の如く神に疎(うと)き不潔なる度生を献げたり。
三者よ、我等爾惟一の神を讃詠す、聖、聖、聖なる哉爾父と子と聖神゚(しん)、単一の性、永遠に伏拝せらるる惟一者や。
無玷(むてん)にして夫を知らざる母童貞女よ、世々を造りし、神は爾の中に於て我が霊体を衣て、人性を己に合せ給へり。
第6歌頌 [イルモス] 我心を盡して仁慈なる神に籲(よ)べり、彼は我が最深き地獄より呼ぶを聆き、我が生命(いのち)を亡滅より援け給へり。
救世主よ、我が諸罪の波は紅の海の波の如く転じて俄に我を覆へり、昔エギペト人と其騎兵とを覆ひしが如し。
なり、蓋爾は愚(おろか)にして、諸慾の快楽に飽くことを神聖なる「マンナ」より重んぜり。
霊(たましい)よ、爾はハナネィの思ひの井を泉ある石より重んぜり、此の泉より出づる智恵の河は器の如く神学の流れを注ぐ。我が霊(たましい)よ、爾はの肉と釜とエギペトの糧とを天の糧より重んぜり、古の無智なる民の野に在るが如し。
救世主よ、爾の僕モイセイは杖を以て石を撃ちて奥密に爾が生命(いのち)を施す脇を象れり、我等皆是より生命(いのち)の飲料を汲む。
霊(たましい)よ、イイススナウィンの如く約地を探り其如何なるを視て、法に適ふ行(おこない)を以て此の中に住所(すまい)を定めよ。
我は単一にして分かれざる三者、位に於て分かれたる者なり、又我は惟一者、性に於て合一なる者なり、父、子、聖神゚(せいしん)之を言ふ。
生神女よ、爾の腹は我等の為に我が形を受けし神を生めり、其万有の造物主なるを以て、彼に祈り給へ、我等が爾の祈祷に依りて義とせらるるを得ん為なり。
[コンダク] 我が霊(たましい)よ、我が霊(たましい)よ、起きよ、何ぞ眠る、終わりは迩づく、爾擾れん、故に寤めよ、在らざる所なく充たざる所なきハリストス神を宥(なだ)めん為なり。
第7歌頌 [イルモス] 列祖の神よ、我等罪を犯し不法を行ひ、不義を爾の前に為し、爾が我等に誡(いましめ)しことを守らざりき、行わざりき、然れども終に至るまで我等を棄つる毋れ。
約匱(やくひつ)が車に牽かれて、牛路(うしみち)を失ひし時彼のオザは惟之に觸るるに依りて神の怒を蒙れり、霊(たましい)よ、爾彼の慎なきを避けて、正しく神聖なる事を恭へ。
霊(たましい)よ、爾はアヴェサロムが如何にして天性に背きしを聞けり、爾は其醜き行(おこない)、即ち彼が如何にして父ダヴィドの榻を汚ししを知る、然れども爾自を彼の邪慾と快楽との情に倣へり。
霊(たましい)よ、爾は己の奴隷ならざる位を爾の肉体に従わしめたり、蓋爾は他のアヒトヘルを敵の中に獲て、其謀を聴けり、然れどもハリストス親ら之を敗りて爾に救を得易からしむ。
奇異なるソロモンは智恵の恩寵に満たさるれども、曾て神の前に悪を行ひて、彼より離れたり、霊(たましい)よ、爾自らを詛わるべき生命(いのち)を以て之に似たる者と為れり。
噫(ああ)智恵を愛する者は快楽の慾に惹かれて淫婦に溺れ、神に離れて汚れたり、霊(たましい)よ、爾自ら心中に耻(は)づべき邪慾を懐きて、彼に倣へり。
霊(たましい)よ、爾は父の諭を聴かざりしロヴォアム、又昔の反逆者たる極悪の僕イエロヴォアムに齊しき者となれり、然れども彼等に倣ふを避けて、神に呼べ、我罪を犯せり、我に憐みを垂れ給へ。
単一にして分かれざる一体の三者と惟一の性、三光と一光、三聖と一聖なる神三者は歌を以て歌わる、霊(たましい)よ、爾も三一の生命(いのち)成る万有の神を歌ひ讚め揚げよ。
神の母よ、我等爾を歌ひ、爾を崇め讚め、爾に伏拝す、蓋爾は分かれざる三者の一なるハリストス神を生みて、親(みずか)ら我等地に居る者の為に点の住所(すまい)を開き給へり。
第8歌頌 [イルモス] 凡そ呼吸ある者と造物は、天軍の讚揚し、ヘルヴィムとセラフィムの戦く者を歌ひ、崇め讚めて、世々に讚め揚げよ。
霊(たましい)よ、爾オジヤに傚(なら)ひて彼に倍する癩病を受けたり、不当の事を思ひ、不法の事を行へばなり、爾に有る所を棄てて、痛悔に趨(はし)り附け。
霊(たましい)よ、爾は麻を着、灰を蒙りて、神の前に痛悔せしニネヴィア人の事を聞けり、然れども爾は彼等に傚(なら)わずして、頑なること、凡そ律法の前及び律法の後の罪人に超へたり。
霊(たましい)よ、爾は如何にイエレミヤが不潔の阱(おとしあな)に在りて、シオン城の為に悲しみ歎きて、涙を求めしを聞けり、彼が悲歎の生命(いのち)に倣(なら)へ、然らば救を獲ん。
イオナはニネヴィヤ人の悔改を預知して、ファルシスに遁れたり、蓋彼は預言者として、神の憐みを知りて、預言が偽りにならざらん為に熱中せり。
霊(たましい)よ、爾は如何にダニイルが穽(おとしあな)に在りて猛獣の口を塞ぎしを聞けり、如何にアザリヤと偕にありし少者が信を以て爐(いろり)の燃ゆる焔を滅ししを知れり。
霊(たましい)よ、我旧約より爾の為に悉くの例を引けり、義人が神を喜ばしむる行(おこない)に傚(なら)ひ、悪人の罪を是より避けよ。
無原の父、同無原の子、仁慈の撫恤者、義なる神゚(しん)、言(ことば)の父、無原の父の言(ことば)、生活にして造成する神゚(しん)、三者惟一者よ、我を憐み給へ。
至浄なる者よ、紅の組織(おりたて)を以て錦の衣を織るが如く、エムマヌイルの肉体は爾が腹の中に織られ足り、故に我等実に爾を生神女として尊み崇む。
第9歌頌 [イルモス] 種なき胎の産は言ひ難し、夫を知らざる母の果は朽ちず、神を生む産は天性を改むればなり、故に我等万世爾を神の嫁なる母として正しく崇め讚む。
ハリストスは試みられ、悪魔は試み、石を示して餅と為さんことを勧め、山に上せて、一瞬の間に世界の万国を示せり、鳴呼霊(たましい)よ、誘惑を畏れて、儆(けい)醒(せい)して常に神に祈れ。
野に居るを慶ぶ鴿(はと)、呼ぶ者の声、ハリストスの燈(ともしび)は痛悔を伝へて呼べり、此の時イロドはイロディアダと共に不法を行へり、我が霊(たましい)よ、謹みて不法者の網に陥る毋れ、乃痛悔を愛せよ。
恩寵の前駆は野に居り、イウデヤ及びサマリヤの人皆趨(はし)り附きて彼に聴き、己の罪を告げて、熱心にして洗を受けたり、惟爾霊(たましい)よ、彼等に倣わざりき。
婚姻は貴く、牀(とこ)は玷(けがれ)なし、蓋、ハリストスはカナの婚姻に於て身にて食を食ひ、水を酒に変ずるを以て之を祝福せり、霊(たましい)よ、彼が此の首の奇迹を顕ししは、爾が変易せん為なり。
ハリストスは癰瘋(なんぷう)者を固めて、之に榻(とこ)を取らしめ、嫠(やもめ)の子たる少者を死より起こし、百夫長の僕を医し、サマリヤの婦(おんな)に己を顕して、霊(たましい)よ、爾の為に神゚(しん)を以て神に務むるべきを象れり。
主は血漏の婦(おんな)を其衣に觸るるに因りて医し、癩病者を潔くし、瞽者(めしい)に見るを賜ひ、跛者(あしなえ)と聾者(みみしい)、唖者(おうし)とを治し、僂(かが)みたる婦(おんな)を言(ことば)にて医せり、禍(わざわい)なる霊(たましい)よ、是爾が救を得ん為なり。
我等父を讚め揚げ、子を崇め歌ひ、信を以て聖神゚(せいしん)を尊み拝み、分れざる三者、性に於て惟一なるもの、一光と三光、三一の生命(いのち)、四極に生命(いのち)を施して之を照す者を崇め讚めん。
至りて潔き神の母よ、爾の城邑(まち)を衛り給へ、蓋彼は信を以て爾の力にて建ち、爾に依りて堅固にせられ、爾を以て凡その誘(いざない)に勝ち、諸敵を敗りて之を従わしむ。
尊きアンドレイ、至りて福たる神゚(しん)父クリトの牧者よ、爾を讚め歌ふ者の為に常に祈りて、我等凡そ爾の記憶を中心より尊むものを忿怒(いかり)と、憂愁(うれい)と傷害(そこない)と、数へ難き罪過より脱れしめ給へ。
[イルモス]種なき胎の産は言ひ難し、夫を知らざる母の果は朽ちず、神を生む産は天性を改むればなり、故に我等万世爾を神の嫁なる母として正しく崇め讚む。
(本ページは、http://www.orthodox-jp.com/liturgy/prayerbook/Greatlent/ANDREI.htmを参照し参考にさせていただきました。)