第一祝文
至聖、至潔、無原にして、見るべからず、知るべからず、究むべからず、變なく、勝つべからず、測るべからず、寛宥なる主、獨不死を有ち、邇(ちか)づき難き光に居り、天地海、及び其内の万物を造り、衆に其未だ願はざる先に於て願ふ所を賜ふ主宰、人を愛する者よ、我等爾に祷り、爾主、神、我が救世主イイススハリストス、我等人々の為、及び我等の救の為に天より降り、聖神及び永貞童女・至栄なる生神女マリヤより身を取りし者、先づ言を以て訓へ、後に行を以て示し、救を施す苦を受けんとする時、我等卑微にして罪なる當らざる爾の諸僕に、首を俯し、膝を屈めて、己の罪と人々の過との為に爾に祈祷を獻る例を予へし者の父に求む。
慈憐にして人を愛する主よ、爾親ら我等が爾に呼ぶ何の日に於ても我等に聴き、殊に此の五旬祭の日に於て聴き給へ。
蓋我が主イイススハリストスが天に升り、爾神父の右に坐して後、爾は此の日に於て彼の聖なる門徒及び使徒に聖神を遣して、彼等各人に止まらしめ、彼等皆其盡されぬ恩寵に満たされて、異邦の言を以て爾の威厳を言ひ、且預言せり。
故に今我等爾に祈る者に聆き、卑微にして定罪せられし者を念ひ、爾が慈憐の我等の為に求むるを受れて我等の霊の俘(とりこ)を還し、我等爾に俯伏して、我等罪を犯せりと呼ぶ者を納れ給へ。
我等腹を出でしより爾に託せられ、我が母の腹に在りし時より爾は我が神なり。
惟我等は日を空虚に終へ、爾の援助を褫(うば)はれ、一(ひとつ)も表白(いいわけ)すべきなし。
然れども爾の廣き恩を頼みて籲(よ)ぶ、我等が少き時の罪と過とを記憶する母(なか)れ、我等が隠なる咎(とが)より我等を浄め、我等の老ゆるに及びて力の衰ふる時、我等を棄つる毋れ、我等が未だ土に帰らざる先に我等を遺す毋れ、我等を爾に帰るに堪ふる者と為し、愛憐と恩寵とを以て我等に聆き納れ、爾の洪恩を以て我等の不法を権り、我等が罪悪の多きを掩ふに爾が慈憐の淵を以てせよ。
主よ、爾が聖なる高き處より爾の前に立ちて爾より饒なる恵を徯つ民を眷(かえり)み給へ。
爾の仁慈を以て我等に臨み、悪魔の虐制より我等を拯ひ、爾の神聖なる法を以て我等の生命を堅め給へ。
天使正しき守護者を爾の民に傍はしめ、衆人を爾の國に聚め、爾を恃む者に赦免を予へ、彼等と我等とに罪を宥め、爾が聖神の挙動を以て我等を潔め、敵の我等を害せんとする悪謀を敗り給へ。
又左の祝文を加誦す、
崇め讃めらるる哉主宰、主、全能者、日光を以て晝を照し、火光を以て夜を明にし、我等に晝の永きを過し、夜の始に近づくを得しめし者よ、我等及び爾が衆人の祈を聆き、我等衆に自由と不自由との罪を赦し給へ。
我が暮の當を納れ、爾の裕なる慈憐と洪恩とを爾の嗣業に遣し給へ。
爾の聖なる天使を以て我等を圍み、爾の義の武具を以て我等を装ひ、爾の眞實を以て我等を環り、爾の力を以て我等を守り、我等を凡の苦難、凡の敵の悪謀より脱れしめ給へ。
我等に此の晩を来る夜と共に、又我が度生の諸日を純全、成聖、平安、無罪にして、誘感なく、妄想なきを予へ給へ、聖なる生神女、及び古世より爾の悦を獲たる諸聖人の祈祷に因りてなり。
第二祝文
主イイススハリストス我等の神よ、爾は尚世に在りて我等と偕に居る時、爾の平安を人々に畀へ、至聖なる神の賜を奪はれざる嗣業として、常に信ずる者に賜へり。
今日爾は更に明に此の恩寵を爾の門徒及び使徒に遣し、火の舌を以て彼等の口を堅固にせり。
彼等に由りて、我等全人類は、各其方言を以て、神の教を己の耳に承け、聖神の光に照され、迷を黒暗の如くに釋き、見るべき火の舌の分配と神妙なる挙動とを以て、爾を信ずることを教へられ、爾を父及び聖神と偕に、惟一の神性と能力と権柄とに於て讃揚することを明に覚れり。
故に爾父の光、其本性本体の變りなく動きなき像、智慧と恩寵との泉よ、我罪人にも口を啓きて、如何に爾に祷り、何をか求むべきを訓へよ、蓋爾は我が罪の甚多きを識る、然れども爾の慈憐は其数へ難きに勝たん。
視よ、我畏を以て爾の前に立ち、我が霊の失望を以て爾が仁慈の淵に投ぜり。
言ひ難き智慧の能に由りて、言を以て万物を司る主、颶風に遭ふ者の穏なる湊よ、我が生命を導き、我に行くべき途を示し給へ。
爾が智慧の神を以て我が懐を予へ、聡明の神を以て我が無知に賜ひ、爾が畏の神を以て我の行為を蔭ひ、正しき神を我の衷に改め、主宰たる神を以て我が心の弱きを固め給へ。
我が日々に爾の至善なる神を以て、有益なる事に導かれて、爾の誡を行ひ、常に爾が光栄なる降臨と我等が行の審問とを記憶するに堪ふるを得ん為なり。
我に此の世の朽つべき美麗に惑はさるることを許す毋れ、乃未来の宝を獲んとする望を固め給へ。
主宰よ、蓋爾は言へり、人爾の名に由りて何をか求めば、必爾の永在なる神父より受けん、故に我罪人も、此の爾が聖神の降臨に於て、爾の仁慈を求む、我が願ひし事を救の為に予へ給へ。
嗚呼主よ、爾は至善にして富める諸恩の賦予者なり、蓋爾は我等の求むる所を優に賜ふ。
爾は慈憐仁愛なるに由りて、罪なくして我が肉体を受け、我が諸罪の挽回の祭と為りて、爾の前に膝を屈むる者に爾の矜恤(きょうじゅつ)を傾く。
故に主よ、爾の民に爾の洪恩を賜ひ、爾が聖なる天より我等に聴き、爾が救を施す右の手の能力を以て我等を聖にし、爾の翼を以て我等を覆ひ、爾の手の作為を棄つる毋れ。
主宰よ、我等獨爾に罪を犯す、然れども亦獨爾に奉事す、我等他の神に叩拝し、亦他の神に手を舒ぶるを識らず。
我等の愆を免し、我等が膝を屈むる祷を納れて、助を施す手を我等衆人に舒べ、衆の祈祷を爾が至善なる國に於て歆くる所の香爐の香の如く納れ給へ。
又左の祝文を加誦す、
主よ、主よ、我等を晝の諸の流矢より脱れしるし者よ、我等を闇冥(くらやみ)に行く諸の害より脱れしめ給へ。
我が手を挙ぐるを晩の祭として受け給へ。
我等に過なく、悪に誘はれずして夜の路を過らしめ給へ。
我等を悪魔より来る諸の紛擾と畏懼より脱れしめ給へ。
我等の霊に感動を與へ、我等の心に畏るべき義なる爾の審判に對ふべきことを慮らしめ給へ。
我等の体を爾を畏るる畏に釘うち給へ、我等が地に在る肉慾を殺し給へ。
我等が眠の静なる時にも爾の誡を見るに因りて照さるるを得しめ給へ。
我等より諸の妄想と害ある慾とを除き給へ。
我等を祈祷の時に興して、我が信を固め、爾の誡を行ふに進ましめ給へ。
第三祝文
常に流れて生を施し光を施す泉、父と同永在なる造成の能力句、尤も善く人類の救贖の凡の慮を成就せしハリストス、我等の神よ、爾は解き難き死の縲絏(なわめ)と地獄の閉鎖とを壊り、悪鬼の群を践み給へり。
爾は己を薦めて我等の為に玷なき犠牲と為し、凡の罪の侵し難く觸れ難き至浄なる体を獻じて祭と為し、此の畏る可く測り難き聖務に藉りて我等に永遠の生命を賜へり。
爾は地獄に降り、世々の固を破り、黒暗に坐する者の為に登るべき路を啓き、神智の餌を以て首悪者たる深處の蛇を釣り、黒暗の縲絏を以て之を地獄及び熄えざる火の中に縛り、爾の極めて強き力を以て之を外の暗に閉せり。
父の至栄なる睿智よ、爾は危険に在る者の大なる佑助、幽暗(くらやみ)と死の蔭とに坐する者を照す光なり。
爾永遠なる光栄の主、至上なる父の至愛の子、永在の光よりする永在の光、義の日よ、我等爾に祷る者に聆きて、爾の諸僕、先に寝りし我等の諸父兄弟、及び他の肉身の親族、竝に悉くの同教者、我等が今記憶する者の霊を安息せしめ給へ、蓋衆人は爾の権に属し、地の四極は爾の手に在り。
主宰、全能者、先祖の神、慈憐の主よ、爾は死すべきと死すべからざるの族類、及び凡そ合せらるると復解かるるの人性の造成者、生命及び終、此の世に住まひ及び彼の世に移ることを司る主、生ける者の為に年を測り、又死の期を定め、地獄に下し、又登せ、劣弱を以て束ね、又能力を以て解き、現在の事を宜しきに合ひて修め、又未来の事を利益に随ひて備へ、死の刺を以て刺されたる者を復活の望を以て活かし給ふ主なりむ。
万有の主宰、神、我が救世主、地の四極及び遠く海に居る者の恃みよ、爾は五旬祭の此の末の大なる救の日に於て我等に、一体にして同永在なる、分れず混ぜざる、聖三者の奥義を示し、生を施す爾の聖神の降臨と庇廕(おおい)とを顕し、火の舌の形を以て之を爾の聖なる使徒に注ぎ、彼等を立てて我が神聖なる教の福音者と為し、眞の神学を承け認め及び伝ふる者と為せり。
爾は此の救を施す全備なる祭に於て、地獄に繋がるる者の為に祈祷の獻祭を享け、彼等を圍む苦の緩と涼との爾より賜はらんことの大なる望を我等に與へたり。
我等卑微にして不當なる爾の諸僕爾に祷る者に聴きて、先に寝りし爾の諸僕の霊を光る處、茂き草場、涼しき處、凡の病と悲と歎との遠ざかりし處に安息せしめ、彼等の霊を義人の住所に入れ、彼等に平安と寛宥とを賜へ。
蓋主よ、死者は爾を讃め揚ぐるを得ず、地獄に在る者は爾に讃美を獻ぐる能はず、乃我等生ける者は爾を崇め讃めて祈祷し、彼等の霊の為に潔を為す祷と祭とを爾に獻ず。
左の祝文を加誦す、
大にして永遠なる、聖にして仁愛なる神、此の時に於て我等に爾の近づき難き光栄の前に立ちて、爾の奇蹟を歌ひ讃むるに勝へしめし者よ、我等爾の不當なる諸僕を潔めて、我等に傷感の心を以て、謙卑にして爾に聖三の讃美を奉り、又爾が我等に行ひし所、且常に我が内に行ふ所の爾の大なる恩賜の為に感謝を捧ぐる恩寵を與へ給へ。
主よ、我等の劣弱を念ひて、我等を我が不法と偕に亡す毋れ、乃我等の謙卑に大なる憐を垂れ給へ、我等が罪の幽暗を脱れて、義の日を度らん為、光の武具を衣、凶悪者の諸の謀に悩まされずして、万事の為に勇敢を以て爾惟一の眞の神、人を愛する主を讃栄せん為なり。
蓋万有の主宰及び造成主よ、爾の造物が暫く解かれ、其後復合せられて、世世に息はんとすることは、此れ實に爾の大なる密なり。
我等一切の為、我等が此の世に入り、又此れより出づる為に爾に感謝を奉る。
爾の譌なき契約は我等の為に、復活及び爾が再臨の後に我が得んとする不朽の生命の冀望(きぼう)を確定す。
蓋爾は我等の復活の首、生を度りし者の公義にして仁愛なる審判者、又恩賞を施す主宰及び壬なり。
爾は極めて大なる憐に因りて我等の血肉を衣、深き恵に因りて慾の外我が血肉に属する劣弱に與りて、甘んじて難を受け給へり、親ら試みられて、試みらるる者に助くる者とならん為なり、故に我等をも己の無慾に升せ給へり。
求む、主宰よ、我等の祈祷冀願を納れて、我等各人の父母、子女、兄弟、妹妹、全家、同族、及び凡そ復活と永遠の生命との望を懐きて寝りし者を安んぜしめ給へ。
彼等の名を生命の書に載せ、彼等の霊をアウラアム、イサアク、イアコフの懐に、生ける者の地に、天國に、福楽の堂に置き、爾の光明なる天使を以て彼等衆を爾の聖なる居處に入れ、爾の聖にして譌なき契約の定めたる日に於て我等の肉体をも彼等と偕に起し給へ。
主よ、我等爾の諸僕、肉体より出でて爾我等の神に来る者の為に死あらず、乃哀しきことより楽しきことに移り、安息及び喜悦に移るなり。
若し我等爾の前に罪を犯ししならば、求む、我等及び彼等に憐を垂れ給へ、蓋人、其生命の日の一日と雖、一人も爾の前に汚なきはあらず、唯爾獨地に現れし我が主イイススハリストスは罪なし。
我等皆爾に藉りて慈憐と諸罪の赦とを獲んことを望む。
故に求む、仁慈にして人を愛する神なるに因りて、我等及び彼等に己に由ると己に由らざる、知ると知らざる、顕なる又隠なる、行と意と言と我等の悉くの行為と挙動との諸罪を解き、赦し、宥め給へ。
逝ぎ去りし者には赦免と安息とを賜ひ、我等生存する者には福を降して、我等及び爾の衆人に平安なる善き終を賜ひて、爾の威厳なる畏るべき再臨の時に、我等衆の為に慈憐仁愛の心を啓きて、爾の國に入るに堪ふる者と為し給へ。
又左の祝文を加誦す
大なる至上の神、獨不死を有つ、近づく可からざる光に居り、睿智を以て万物を造り、光と暗とを判ち、日を建てて晝を掌り、月と星とを建てて夜を掌らしめ、我等罪人に此の日にも爾が顔の前に立ち、爾を讃栄して、爾に晩の奉事を獻ぐるを得しめし者よ、爾親ら人を愛する主よ、我等の祷を香爐の香の如く爾の前に登らしめ、是を馨香として納れ給へ。
我等に此の夕及び次ぎて至る夜の平安なるを賜ひ、我等に光明の武具を衣せ、我等を夜の震驚と凡そ闇冥に行く者より脱れしめ給へ。
我等に、吾が弱きを息はしむる為に賜ひし所の眠に、凡そ悪魔よりする妄想なきを賜へ。
嗚呼万有の主宰、諸善を施す者よ、願はくは我等楊に在りても傷感の情を以て夜間爾の至聖なる名を記憶して、爾の誡の念慮に照され、霊の喜を以て起きて、爾の至善を讃栄し、爾の哀憐に我等及び爾が衆民の罪過の為に祷と願とを奉らん。
爾は聖なる生神女の祈祷に依りて慈憐を以て我等衆に臨み給へ。