第1歌頌 [イルモス] 佑け護る者顕れて、我が救と為れり、彼は吾が神なり、我彼を讚め揚げん、彼は我が父の神なり、我彼を尊み頌わん、彼 厳に光栄を顕したればなり。
我が不当なる度生(どせい)の行(おこない)を泣くは何より始むるべきか、ハリストスよ、我が今の嘆(なげき)は何を以て起こすべきか、惟求む、爾慈憐なるに因りて、我に罪の赦(ゆるし)を与へ給へ。
禍(わざわい)なる霊(たましい)よ、体と偕(とも)に来たりて、萬有の造物主の前に罪を認め、今より後先の無知を斥けて、痛悔の涙を神に献げよ。
我誡(いましめ)を犯すを以て、首(はじ)めて造られしアダムに倣(なら)ひて、我が諸罪の為に、己が神と永遠の国と福楽より遠ざけられしを覚へたり。
哀しい哉吾が禍(わざわい)なる霊(たましい)よ、爾は何為(なんす)れぞ首(はじ)めて造られしエヴァに肖(に)たる者と為りし、爾は邪(よこしま)に視、太(はなはだ)しく傷つき、樹に觸れて、敢えて無知の食を食へり。
見るべきエヴァに代へて、見るべからざるエヴァは我の内に起れり、是肉欲の情なり、我に甘きを進むれども、我味わう時常に苦(にが)きを覚ゆ。
救世主よ、アダムは爾が一の誡(いましめ)を守らずして、義に依りてエデムより逐われたり、我は常に爾が生命(いのち)を施す誡(いましめ)を犯して、何の罰を受くべきか。
永久の三者、一性に於て伏拝せらるる者よ、罪の重きを我より卸(おろし)して、慈憐なるに因りて、我に感涙を与へ給へ。
生神女よ、爾を歌ふ者の憑恃(たのみ)及び轉達(てんたつ)よ、罪の重きに負け我より卸(おろし)て、潔(いさぎよ)き女宰たるに因りて、我悔ゆる者を納(い)れ給へ。
第2歌頌 [イルモス] 天よ、聴け、我伝へて童貞女より身を取りて来たりしハリストスを歌わん。
天よ、聴け、我傳へん、地よ、我が神の前に痛悔して彼を歌ふ声を納(い)れよ。
神吾が救世主よ、爾が慈憐なる目を以て我を視(み)、我が熱心なる告悔を納(い)れ給へ。
救世主よ、我衆人に超へて罪を犯し、我独(ひとり)爾の前に罪を犯せり、然れども爾神なるに因りて、爾の造物を憐み給へ。
我諸慾の醜きを我が中に写し、快楽の恣(ほしいまま)にして智恵の美しきを殘(そこな)へり。
慈憐なる主よ、諸悪の烈風は我を繞(めぐ)れり、然れども爾ペトルに於けるが如く、我にも手をのべ給へ。
救世主よ、我が肉体の衣を汚し、爾の像と肖に因りて造られしものを緇(くろ)ませり。
我諸慾の楽にて霊の美しきを黯(くら)くし、吾が智恵を全く塵(ちり)と為せり。
我は我が初めの衣、造物主が始めに我が為に織りし者を裂けり、故に裸体にて臥す。
我は襤褸(つづれ)の衣、蛇が詐(いつわり)を以て我が為に織りし者を着て自ら耻(は)ず。
仁慈なる者よ、我も淫婦(いんぷ)の如く涙を流す、救世主よ、爾の慈憐に因りて我を憐み給へ。
我樹の美(うるわ)しきを見て、心惑へり、故に裸体にして臥して、自ら耻(は)ず。
諸慾の魁(かしら)は悉く我が背に耕して、我が身に其の不法を穿(うが)てり。
我爾三位にして惟一なる万有の神、父と子と聖神゚(せいしん)を歌ふ。
至浄なる生神童貞女、独(ひとり)衆人に讃頌せらるる者よ、我等が救ひを得んことを切に祈り給へ。
第3歌頌 [イルモス] ハリストスよ、爾が誡(いましめ)の動かざる石に我が意思を固め給へ。
主は昔主より日を降らして、ソドムの地を焚(や)けり。
霊よ、彼のロトの如く、山に遁れ、急ぎてシゴルに匿(かく)れよ。
霊よ、焔を避けよ、焚(や)かるるソドムを避けよ、神の火に滅さるるを避けよ。
ハリストス救世主よ、我独(ひとり)爾の前に罪を犯し、衆人に超へて罪を犯せり、我を棄つる勿れ。
爾は善き牧者なり、我羔(こひつじ)なる者を尋ねよ、我迷ひし者を棄つる勿れ。
爾は慕ふべきイイスス、爾は我の造物主なり、救世主よ、我爾に依りて義とせらるるを得ん。
救世主よ、我爾の前に罪を認む、我罪を犯せり、爾の前に罪を犯せり、然れども爾慈憐なるに因りて、我を宥(なだ)め、我を赦(ゆる)し給へ。
鳴呼、三者惟一者、神よ、我等を誘惑と試誘と危難より救ひ給へ。
神を容れし腹よ、慶べ、主の宝座よ、慶べ我が生命(いのち)の母よ、慶べ。
第4歌頌 [イルモス] 主よ、預言者は爾が降臨の事を聞き、爾が童貞女より生れ、人々に顕れんと欲するを懼(おそ)れたり、主よ、光栄は爾の力に帰す。
義なる審判者よ、爾の造工(しわざ)を斥くる毋れ、爾の造物を遺(す)つる毋れ、蓋我独(ひとり)人として衆人に超へて罪を犯したれども、爾人を愛する者よ、万有の主として、罪を赦(ゆる)す権を有ち給ふ。
霊よ、終りは近づく、近づけども爾は慎まず、己を備へず、時は蹙(ちぢ)まる、興きよ、審判者は已に近し、門に及べり、生命(いのち)の日の過ぐるは夢の如く、花の如し、我等何為れぞ徒に心を煩わす。
鳴呼我が霊よ、醒めよ、爾が行ひし所為を想ひ、之を爾が目の前に立てて、爾が涙の滴を注げ、勇て爾の行(おこない)と思とをハリストスに告げて、義とせられよ。
救世主よ、凡そ世にある罪、或は行為、或は悪は我思と言(ことば)と希望にて與からざるなく、即ち志を以て、意念を以て、行(おこない)を以て、犯ししこと衆人に超へたり。
故に我罪せらる、我禍(わざわい)なる者は己の良心にて定罪せらる、世界に此より厳しきはなし、吾が 審判者、贖罪者、及び明察者よ、我爾の僕を宥(なだ)め、釈き、救ひ給へ。
我が霊よ、昔太祖の大(おおい)なるものが見たる梯(かけはし)は、行(おこない)を以て登り、知識を以て上る表なり、故に行(おこない)と知識と明悟とを以て住わんと欲せば、自ら改まれ。
太祖は必要に因りて、昼の暑さを堪へ、夜の寒さを凌ぎて、日々に利を求め、群を牧し、労を取り、勤を盡せり、二人の妻を獲ん為なり。
二人の妻が行(おこない)と明悟(さとり)の知識とを示すを知れ、リヤは多くの子ある者として行(おこない)を示し、ラヒリは多くの苦労を以て獲られし者として知識を示す、蓋霊(たましい)よ、苦労に非ずしては、行(おこない)も明悟(さとり)も成らず。
我爾同王にして同座たる、三位にして惟一なる神性、性に於て分れず、位に於て混合せざる者を承け認め、爾に大(おおい)なる歌、最高き居所に三次唱へらるる者を呼び歌ふ。
爾は生むにも、童貞を守るにも、二つながら天性の童貞女なり、爾より生まれし者は天性の法を改め、生まざる腹を生む、神の欲する所には天性の順序渝(か)へらる、彼欲することを行へばなり。
第5歌頌 [イルモス]人を愛する主よ、祈る、夜より寤(さ)むる者を照し、我をも爾の誡(いましめ)に導き、救世主よ、 我に爾の旨を行ふを訓へ給へ。
我常に我が生命(いのち)を夜の中に送れり、蓋罪の夜は我が為に闇冥(くらやみ)と深き霧たりき、然れども救世主よ、我を顕(あらわ)して昼の子となし給へ。
我不当の者はルワィムの如く、至浄なる神の前に不法にして道に悖(もと)ることを行ひ、我が榻(とこ)を汚ししこと彼が父の榻(とこ)を汚ししが如し。
ハリストス王よ、我爾の前に痛告す、我罪を犯し、昔潔浄と貞潔との結果たるイオシフを賣りし兄弟の如くに罪を犯せり。
義なる霊(たましい)は親族に縛られ、愛すべき者は主を象りて奴隷に賣られたり、惟爾霊(たましい)よ、自ら己を全く罪悪に賣れり。
禍(わざわい)なる不当の霊(たましい)よ、義なるイオシフ及び其貞潔の智恵に傚(なら)ひて、己を汚す毋れ、無知なる思ひを以て常に不法を行ふ毋れ。
主宰よ、昔イオシフは穽(おとしあな)に在りたれども、爾の葬(ほうむり)と復活とを象れり、我は何(いずれ)の時に何をか斯くの如きを爾に献げん。
三者よ、我等爾惟一の神を讃詠す、聖、聖、聖なる哉爾父と子と聖神゚(せいしん)、単一の性、永遠に伏拝せらるる惟一者や。
無玷(むてん)にして夫を知らざる母童貞女よ、世々を造りし、神は爾の中に於て我が霊体を衣て、人性を己に合せ給へり。
第6歌頌 [イルモス] 我心を盡して仁慈なる神に籲(よ)べり、彼は我が最深き地獄より呼ぶを聆き、我が生命(いのち)を亡滅より援け給へり。
救世主よ、我切に我が目の涙と中心の歎とを爾に献げて呼ぶ、神よ、我爾の前に罪を犯せり、 我に憐みを垂れ給へ。
霊(たましい)よ、爾はダファン及びアヴィロンの如く爾の主に離れたり、然れども最深き地獄より宥(なだ)め 給へと呼べ、地の淵が爾を覆わざらん為なり。
霊(たましい)よ、爾は牝牛の如くに暴れて、エフレムに似たる者と為れり、鹿の如く爾の生命(いのち)を網より救ひ、行(おこない)と明悟(さとり)とを以て智恵の翼とせよ。
霊(たましい)よ、モイセイの手は神が如何にして能く癩病の生命(いのち)を白くし潔くするを我等に信ぜしむべし、爾癩病を患ふと雖も、自ら望を失ふ毋れ。
我は単一にして分かれざる三者、位に於て分かれたる者なり、又我は惟一者、性に於て合一なる者なり、父、子、聖神゚(せいしん)之を言ふ。
生神女よ、爾の腹は我等の為に我が形を受けし神を生めり、其万有の造物主なるを以て、彼に祈り給へ、我等が爾の祈祷に依りて義とせらるるを得ん為なり。
主憐めよ(3次)、光栄は父と子と聖神゚(せいしん)に帰す、今も何時も世々に、「アミン」
[コンダク] 我が霊(たましい)よ、我が霊(たましい)よ、起きよ、何ぞ眠る、終わりは迩づく、爾擾れん、故に寤めよ、在らざる所なく充たざる所なきハリストス神を宥(なだ)めん為なり。
第7歌頌 [イルモス]列祖の神よ、我等罪を犯し不法を行ひ、不義を爾の前に為し、爾が我等に誡(いましめ)しことを守らざりき、行わざりき、然れども終に至るまで我等を棄つる毋れ。
我罪を犯し、不法を行ひ、爾の誡(いましめ)に背けり、蓋我罪の中に生れ、且我が瘡(きず)に復(また)瘡(きず)を加へたり、 然れども爾列祖の神よ、慈憐なるに因りて、親ら我を憐み給へ。
我我が心の秘密を爾我が審判者の前に顕せり、我が謙(へりくだり)を視、我が憂を視よ、我が今己を罪するを顧みて、爾列祖の神よ、慈憐なるに因りて、親ら我を憐み給へ。
昔サウルは其父の驢(うさぎうま)を亡(うしな)いて、是に関する音信(おとずれ)と偕に俄に国を獲たり、霊(たましい)よ、慎め、己を忘れて、畜類の慾を重んずること、ハリストスの国に超ゆる毋れ。
昔神の先祖ダヴィドは姦淫の矢に傷つけられ、且残忍なる殺害の槍を用ひて、二倍の罪を犯せり、然れども爾我が霊(たましい)よ、自ら恣(ほしいまま)なる慾を疾むこと、此の行ひよりも甚だし。
昔ダヴィドは不法に不法を加へたり、蓋殺害に姦淫を合わせたり、然れども彼は速に二倍の痛悔を為せり、霊(たましい)よ、爾は猶大(おおい)なる罪を行ひて、未だ神の前に痛悔せざりき。
昔ダヴィドは画を描くが如くに歌を記し、其中に己が犯しし行(おこない)を顕して呼べり、我を憐み給へ、蓋我爾独(ひとり)萬有の神の前に罪を犯せり、親ら我を浄め給へ。
単一にして分かれざる一体の三者と惟一の性、三光と一光、三聖と一聖なる神三者は歌を以て歌わる、霊(たましい)よ、爾も三一の生命(いのち)なる万有の神を歌ひ讚め揚げよ。
神の母よ、我等爾を歌ひ、爾を崇め讚め、爾に伏拝す、蓋爾は分かれざる三者の一なるハリストス神を生みて、親ら我等地に居る者の為に天の住所(すまい)を開き給へり。
第8歌頌 [イルモス] 凡そ呼吸(いき)ある者と造物は、天軍の讚揚し、ヘルヴィムとセラフィムの戦く者を歌ひ、崇め讚めて、世々に讚め揚げよ。
救世主よ、我罪人を憐み給へ、我が智恵を起して正しきに反らせ、悔ゆる者を容れ、呼ぶ者に慈憐を垂れ給へ、我爾の前に罪を犯せり、我を救ひ給へ、我不法にして世を送れり、我を憐み給へ。
車に乗るイリヤは昔諸徳の車に上りて、天に擧げらるるが如く、地の一切の物より上に升(のぼ)れり、我が霊(たましい)よ、彼の升りしことを思へ。
昔エリセイはイリヤの衣を受けて、主より二倍の恩寵を獲たり、然れども爾我が霊(たましい)よ、節制なきに因りて、此の恩寵に與らず。
昔エリセイはイリヤの衣を以てイオルダンの流を左右に分かてり、然れども爾我が霊(たましい)よ、節制なきに因りて、此の恩寵に與らず。
昔ソマンの婦(おんな)は誠心を以て義人を饗せり、爾霊(たましい)よ、他邦の者をも旅行する者をも爾の家に入れざりき、故に哀哭(あいこく)して婚筵(こんえん)の宮より逐われん。
不当なる霊(たましい)よ、爾は常にギエジイの不潔の風に傚(なら)へり、已に老ゆるに及びても彼の貪を去れ、爾の悪業を離れて、地獄の火を脱れよ。
無原の父同無原の子、仁慈の撫恤者、義なる神(しん)、言(ことば)の父、無原の父の言(ことば)、生活にして造成する神(しん)、三者惟一者よ、我を憐み給へ。
至浄なる者よ、紅の組織を以て錦の衣を織るが如く、エムマヌイルの肉体は爾が腹の中に織られたり、故に我等実に爾を生神女として尊み崇む。
第9歌頌 [イルモス]種なき胎の産は言ひ難し、夫を知らざる母の果は朽ちず、神を生む産は天性を改むればなり、故に我等万世爾を神の嫁なる母として正しく崇め讚む。
智恵は傷つけられ、肉体は衰へ、霊(たましい)魂は疚(や)み、言(ことば)は弱り、生命(いのち)は殺され、終わりの門にあり、我が禍(わざわい)なる霊(たましい)よ、審判者来たりて爾の行(おこない)を糾さん時爾何をか為さん。
霊(たましい)よ、我爾にモイセイが創世の伝を示し、之に次て義者と不義者との事を述ぶる聖約の諸を悉く示せり、吁(ああ)霊(たましい)よ、爾は此の中前の者に傚(なら)わず、後の者に傚(なら)ひて、神の前に罪を犯せり。
霊(たましい)よ、爾の為に律法は力なく、福音経は效(しるし)なく、悉くの聖書は益なく、預言者と凡そ義人の事を述ぶる言(ことば)とは徒然(とぜん)なり、爾の瘡(きず)は愈(いよいよ)加わりて此を療す医師なし。
霊(たましい)よ、我新約の書より爾の傷感を起こす霊(たましい)を引く、故に義人に傚(なら)ひ、罪人を避け、祈祷、禁食、潔浄、無玷(むてん)を以てハリストスの憐みを迎へよ。
ハリストスは人と為りて、盗賊と淫婦とを痛悔に招けり、霊(たましい)よ、痛悔せよ、国の門は已に啓けて、痛悔するファリセイと税吏と姦淫者とは爾に先ちて此に入る。
ハリストスは我が肉体を取りて人と為り、罪の外は凡そ人性に適ふことを自由に試みて、霊(たましい)よ、爾に己の寛容の霊(たましい)と表式とを示せり。
ハリストスは博士を救ひ、牧者を召し、衆くの嬰児を致命者と為し、翁と老いたる嫠(やもめ)との栄を顕せり、霊(たましい)よ、爾は彼等の行(おこない)と生命(いのち)とに傚(なら)わず、嗟(ああ)審判に逢わん時爾禍(わざわい)なる哉。
主は四十日野に斎し、遂に飢へて、己の中に人の性を顕せり、霊(たましい)よ、敵爾を攻めば、怠る毋れ、乃祈祷と斎とを以て是を爾の足下より退かしめよ。
我等父を讚め揚げ、子を崇め歌ひ、信を以て聖神゚(せいしん)を尊み拝み、分れざる三者、性に於て惟一なるもの、一光と三光、三一の生命(いのち)、四極に生命(いのち)を施して之を照す者を崇め讚めん。
至りて潔き神の母よ、爾の城邑(まち)を衛り給へ、蓋彼は信を以て爾の力にて建ち、爾に依りて堅固にせられ、爾を以て凡その誘(いざない)に勝ち、諸敵を敗りて之を従わしむ。
尊きアンドレイ、至りて福たる神゚父(しんぷ)クリトの牧者よ、爾を讚め歌ふ者の為に常に祈りて、我等凡そ爾の記憶を中心より尊むものを忿怒(いかり)と、憂愁(うれい)と傷害(そこない)と、数へ難き罪過より脱れしめ給 へ。
[イルモス]種なき胎の産は言ひ難し、夫を知らざる母の果は朽ちず、神を生む産は天性を改むればなり、故に我等万世爾を神の嫁なる母として正しく崇め讚む。